第3回中高生3000字小説バトル
Entry5

堕落の帝王

ああ! 我は自らの堕落に耐えることが出来ない!!
 孤独にも似た焦燥、混乱、そして沈黙。そんなものが我にあったとは!! だが、もはや手遅れだ。我が自らの倦怠を知り、克己するなど……手遅れだ!! いや。
 我から既に莞爾たる笑みは消えた。いつ頃からやら。
 生まれ、落ちたその日から、その倦怠を穿ち、滅ぼさんとても、無駄な努力となることを宿命づけられていたのだろう。そんな自虐さえ、怠惰な心機、稚拙で怠惰な心情を表しているに過ぎない。
 世は我を誰として侮辱しない!! かといえ、軽蔑も同情も優しさも寄せたりはしない。誰もだ!! 衆愚どもは、無関心すら装えず、我の身を抱くことを望みさえするのだ!! 愚かなるは我か!!
 しかし、かような我も主に仕える身である事に違いは無いのだ。沈滞し、緩慢にすら動かぬ我の身と心は、わが主のものなの。我はそれを喜び、時に消極的な感動さえ持って受け入れる。
 だが、主は我の怠惰に気づいていない!我の身は、もはやその鋭き爪の用途すら見出せぬほど怠惰を抱いているというのに!! 主は知らないのだ。我の無感情と沈滞を。
 ただ、幸福か、主は常には、不在であるということか。が、嘆くかな、我が孤独であることではない。
 我をただ見つる者はあり、名をコアラと言う。きゃっつめは、日がな、何するわけでなく、ただ、怠惰に樹にヘバリツイテおるのもなれば。何たる堕落者か。ただ、我のように倦怠や、堕落に関して破滅的な被虐思考を持っておらぬ事は、賞賛に値するや、知れぬ。同類たるものにして、かような理由もあり、我もきゃっつめに対してはそれほどの敵意を抱いてはおらぬ。かといえ、我友とするには、忌忌しさと、弁理ならざる感も、またあり。
 ともすれば、奴の方が優れ、それが証拠に我らが主は、我よりも、コアラに好意をもって接しているように見受れる。無論それは憂慮すべき事態であり、憤懣をもって苦々しい。されど、先程と同じく、自虐の念でそれのほうが良いのだ。思う。真理は虚しからず。されど、優しからず。
 しかし、アレに比べれば、コアラ等は寧ろ我、盟友といっても差し支えない。アレの野蛮に比べれば…。アレ。名を述べるのも嫌悪と嘔吐感で肺がにつまる。エロイカをくれ。
 アレ、その名を、パンダと言う。名からして汚らわしい。まさに奴こそ怠惰堕落の天使、もとい悪魔なり。恐ろしく巨大な体躯を持ち、その膂力も並みではない。されど、きゃつめは日々食うことしか頭に無く、白痴同然の生き様。竹をむさぼり、横になる。やつめええ! 激怒さえもって奴の生き様を恥じと心得よ。されど、体表、我と同じく毛に覆われ。爪鋭く、眼光なし。我は耐えられぬ。なのに、なのになぜ、コアラはぁあああ!!
 だが何よりも、奴は主のお気に入りなのだ。真情なる隷属を示したるやつめは、誇示せずして、自らの従順を、主に理解させておる。
 しかし、奴とて無為の仕草であれほどの寵愛を受けられるとは思えぬ。陰ながらの努力を推して知るべし、されど、況や我においてをや。されど、努力の効空しいのみ。主は我に振り向きもせぬ。まさにこれ空虚かな。まさにこれ道義かな。不快なるが、真実なり。尊くも、侵させざる真理なれば。
 畢竟我が、もはや一日という概念に生きぬことを知られている。日が沈み、また暗黒を克する灯火を部屋に灯そうと、また灯りが薄れ、太陽がその顔を西に浮かばせようと。
 何の感動もなく、また、苦難の思案だけをわが友とすることのみが首を垂れながら、我の思想に入り込むのを静かに見守ることだけしかできぬ。よもや狎れる者さえ我に近づこうとせぬ。それは狂喜すべき事が、一陣の哀切をもって我は受け入れている。無論、孤独故では無い。凶状が届くのをただ待つのだ。それさえ我の倦怠が、怠惰が、堕落が我の信義を曲いる。我は、もはや今の思惟さえ、なんの意味もない。
いかなる悪意、成長、囁き、誘惑の伝播も我は受け付けぬ。愚かしく、故なくも堕つるのみ。
 我の精神を宿したまう我の肉体をただ恨めしく呪うのみ。小さすぎる体。我の瘴気たる精神を宿すにはあまりにも拙く、弱い。一日に2m動き、大儀であったと思う日々は非常に虚し。腕長いも、せいぜいに四つん這いになっては。目は暗く、それで滾る野心を燃やす瞳。されど、されど。
 よもや、悩むことさえ疎ましい……しかし。
 しかして。
 主は、かよな我に述べるのだ。胡散臭げに述べるのだぁ。
 「あんた、ナマケモノでしょ。ごちゃごちゃ言わないで。疲れてるの」






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