1×××年、この国はたび重なる国民の浪費と政府の無駄遣いにより、世界で唯一の貧乏国となった。 大昔は戦争をした仲でもある某国からの支援も一切途切れ、国民は物価の上昇や不景気に苦しんでいた。 この村も例外なく、不景気に苦しんでいた。 そんな村に1人の青年がいた。 青年の家はもともとお金持ちで倉庫にはあまるほどの金が蓄えられていた。 しかし、本来の値段よりも10倍も20倍もの値段がついている食料を買うのはもったいない。 そんなことをしているうちに、食料も底を突き、青年の家は極貧に陥ってしまった。 青年はもう5日も食料を口にしていない。 頭はフラフラし、見るもの全てが食料に見えてしまった。 そして青年は思いついた。 「あんなにお金があまっているのなら、お金を食べればいいじゃないか。」 早速青年は、倉庫から一握りの硬貨をつまんできた。 恐るおそる口に入れてみる。 カリッ。 口いっぱいに広がる硬貨の風味に青年は酔っていた。 「なんておいしいんだろう。 こんなにおいしいものをどうして気付かなかったんだろう。」 それから青年は毎食を硬貨にし、ちょっと贅沢する時には紙幣を主食にした。 食べても食べても、倉庫のお金は減ることを知らなかった。 青年は考えた。 「こんなにおいしいものを世間に知らせないのはもったいない。 それに、私だけでは倉庫の金は食べきれない。」 そして青年は修行をつんでシェフになり、「レストラン硬貨」をオープンさせた。 しかし、こんな不景気で客が入るはずもなく、レストラン硬貨はあっという間に赤字に転落した。 そこで青年は思いついた。 「硬貨や紙幣を口に入れるなんて普通の人には抵抗があるだろう。 そうだ、これらをチョコレートだといえば、人々も何の抵抗なく食べてくれるのではないだろうか。」 青年は全てのメニューをチョコレートだと書き換えた。 そのお陰でレストランの経営は黒字となり、世間の人々の口コミで「レストラン硬貨」は日本を代表するチョコレートレストランとなった。 しかし、しだいに人々は疑問に思った。 「どうしてチョコレート料理なのに、店の名前は『硬貨』なんだ?」 青年は焦った。 今までチョコレートだと思ってきたものが、実は硬貨と紙幣だったなんて知られたら、レストランの評判は落ちるだろう。 とっさに青年は考えた。 「硬貨というのは私の好きな言葉です。 なので、チョコレートを硬貨の形にしたらもっとおいしいのではないのだろうかと思います。」 それから硬貨型チョコレートはこの店の定番メニューとなった。 しかし青年は特許をとることを忘れ、気付いた時にはもう遅し、景気回復の波に乗ろうと製菓会社はこぞって硬貨型チョコレートを発売した。 予想どうり、硬貨型チョコレートはロングヒット商品となり、その年の流行語大賞にも選ばれた。 そして、それを境にこの国の景気も回復しはじめたのであった。 特許をとれず、儲けを独り占めされた青年のレストランは「あんなに安く硬貨型チョコレートが買えるのならわざわざレストランで食べる必要もない」と世間の人たちに辛く当たられ、泣く泣く「レストラン硬貨」を閉店したのであった。 そして、青年は路頭をさまよった挙句、最後に 「硬貨型チョコレートは、本当に硬貨なのに。」 そう言い残し、亡くなっていった。 これが、硬貨型チョコの悲しい歴史であった。 そして青年の死後、この話は歴史の教科書にも載るようになった。 そして社会の教師はこの授業のたびに生徒に教える。 「こんな悲しい歴史があるのに、現在の名前が『スマイルコインチョコ』だなんて、残酷な話です。」
僕は霊能力などとはまったく無縁の人間なのだが、それでも奇妙な体験をふたつほどしたことがある。そのうちのひとつは、幼稚園児のころである。 仲の良い友達と遊園地に遊びに行った帰りのこと、あぜ道の端にある肥溜めを覗き込んだ友達を、ほんの悪戯気分で後から押した。ドボンという音と、助けて、という声を残して、僕はそのまま逃げた。 おそらく夢だったのだろう。 しかし、その後、夢の中の友達との記憶が一切途切れてしまっている。そこにある種の怯えを感じるのも事実である。もっとも、当時を知る人を探してまで、彼のことを尋ねてみるつもりはない。 もうひとつの体験も、二十年以上も昔のことだ。 O市の駅裏に古い商店街がある。所々破れたアーチ状のアクリルの屋根がかかっていて、両側に長屋風に出店が並んだ通りだ。アーケードというらしいが、日中の人通りも寂れてまばらで、経営しているのは大抵じいさんばあさんばかり。店も古ければ人も古かった。 そのアーケードの下を、深夜、女の幽霊が走り回るという噂が広がっていた。 もちろん理由がある。この商店街で、ささいな夫婦喧嘩から殺人事件が起こったのだ。庖丁を手に追いかける男から逃れるために、女は悲鳴をあげながらアーケードの下を一目散に走りぬけていったという。が、所詮は女の足だ。追い詰められて何度も刺された。その傷は数十箇所。女は血だらけになって死んだ。 その女が無念の幽霊になって夜な夜な現れ、商店街の端から端まで走りつづけているというのである。 僕は、興味本位でその話を聞いた。親友のKも同様に面白がって「肝試しに、夜になったら、そこ歩いてみよう」と、提案する。 幽霊という言葉を聞いただけで泣きたくなるほど幼い歳でもないし、躊躇する気配を相手に見透かされるのもカッコ悪い。結局、深夜、現場で待ち合わせをして、僕たちふたりは噂の商店街を歩くことにした。 雑談をしながら商店街を二周ほどしたころ。 「くだらんなあ。帰るか」と、Kがいいだした。いつものように気分屋の性格が出たらしい。 実は、二人にとって受験勉強が何よりも忙しいはずの時期だった。帰って少しは勉強しなくちゃ、とKが言葉を続けた。二人とも幽霊話なんか、これっぽっちも信じていなかったのだろう。友達同士でおしゃべりしながら散歩するのは、いい憂さ晴らしだ。つまりは、受験勉強を抜け出す口実に過ぎなかったのである。 ところが、突然、Kが「わっ」と叫んだ。さらに、急に走り出したからビックリだ。 「どうしたんだ」 「寒くなったから、駆け足だ。このまま家へ帰って明日の宿題するわ」 なんのことはない。 「そうか」 と、僕も彼に引きずられて走った。 すると、Kが突然横を向いて話し掛ける。 「おいっ。後ろから誰かついてきてないか」 「えっ」 いわれてみると、足音のような気配がする。背中がなんだか薄ら寒い。 ふいに、怖くなった。闇の中に後ろ髪を引っ張り込まれるような感じである。 ……というのも、そういう気分になっただけかもしれない。が、走り始めた足はもう止まれない。 「待てよ。先に行くなよ」 「いや、だから、後ろから何かがついてきているんだって!」 「バカな」 と、いいながら、お互いに後ろを振り返らない。怖くて後ろを見ることができないのだ。 しかし、おそらくそれも雰囲気。 わかっていながら、ひたすら前を向いて走る。 「何が来るっていうんだ」 「わからん。幽霊かもしれないし……」 「幽霊……」 言葉は魔物である。 一度口から出たら、勝手にその意味を増殖させて感情を煽る。感情というやつは、一たび理性の制御から放たれると、どこまでも際限なく昂ぶっていくものだ。 「とにかく逃げろ」 Kは先へ先へとスピードを上げる。僕は一生懸命ついていく。抜きつ抜かれつ、僕が先に出ることもある。 「わーっ!」 Kがまた叫んだ。 な、なんで叫ぶんだ。 「うへえ−っ」 僕も叫んだ。もう無我夢中である。死に物狂いになって、商店街の出口に向かって走りつづけた。 その姿は、人目にはたったふたりの街道レースのように見えたかもしれない。まるで、短距離ランナーのデッドヒート。 実際、走っている途中で相手に対する闘争心がめらめらと芽生えてきた。 「こいつには負けられない」 ふと、そう思った。 「お前には負けない」 と、Kが横目でこちらを見た。 ついに、目の前に大通りの信号機が見えてきた。出口である。その瞬間、二人が両手を広げて(グリコの図柄を思い浮かべて欲しい)、商店街のアーケードから飛び出したのかどうか、まったく記憶にない。 アーケードの外で、体をくの字に曲げ、両手でひざをつかんで、息を整えた。Kの顔は凄まじく青い。おそらく、僕自身も同じ顔をしていたのだろう。 が、これでは勝負がついていない。 Kの目の奥にあった青白い残り火が、めらめらと燃え上がったのが見えた。僕は先手必勝で怒鳴った。 「何で、突然走り出すんだ」 「最初走り出したのは、寒くなったからだ」 「スピードを上げたろう」 「おまえが、スピードを上げたからだ」 気づくと、再び二人はダッシュしていた。 「おまえには死んでも負けん」 「ふん、俺もだ」 後から追いかけてきた気配は、野良犬だったかもしれない。それで、充分納得がいく話だ。しかし、友人の必要以上の闘争心だけは納得がいかない。 Kの足がふいに目の前に突き出た。僕はそれをかろうじてよけ、地面に三回転しながら受身を取った。 殺気を感じた。 それを振り払うように、僕はKの足元に猛烈なタックルをかました。Kはもんどりうって、顔面から前のめりに倒れた。鼻血がアスファルトを黒く濡らした。 ついに血を見た! よくもやったな、と立ち上がったKの形相はすでに人間のものではない。 「飛燕蛇口拳!」 という嬌声とともに、あっと思う間に指先で額を突かれた。耳の奥がキーンと鳴ったかと思うと、鉄を噛んだような味が口中に満ちた。驚くほど多量の血反吐が顎を伝った。 「強敵と書いて『とも』と呼ぶにふさわしい」 見よう見まねながら、ジャッキー・チェンのカンフー映画を自家薬籠中の物にした腕前は敵ながら見事である。 僕は天空を掻き込むように両手を回転させた。ならば、北斗神拳しかあるまい。森羅万象の闘気を自己内部の宇宙に取り込み集中する。実戦経験は皆無だとはいえ、漫画は舐めるように何度も読んだ。その技をこの身に体得していないはずはない。 「生きては家に帰さん」 「おまえに俺が倒せるかな?」 「この前の数学B、55点だったろ。俺は67点だった」 「おいっ!」 獣のような闘争心だけに操られた肉体が、ついに精神から放たれ暴れだす。 修羅の連打が、マシンガンのように爆裂した……ぐわぉおおお……誰のものともわからぬ悲鳴が天地の間を裂く。 視界は一面、血煙に包まれている……。 あた、あたたたたたたたっ。ちぇーすとっ!!!!!! (作者暴走のため未完) (てか、あまりにも気分が重くなってきたので書き上げること自体を放棄したのだが、毎月投稿しているので今回も投稿だけはしておくことにした、がははは。実験小説と善意にとってくれ) (……結局、そのとき友達をひとり無くしたってことです) (これ、実話かいな?本当はそのときから取り憑かれてるんじゃないの?) (破綻小説、と呼ぶにやぶさかではない) (精神も分裂してきてます……)
右の上の奥の歯の、詰め物がなくなっていた。代わりにはさまっていた鶏肉らしきものを舌の先でなぞると、指先のささくれを撫でてめくるような感触が返ってくるばかりで、それは想像以上にしっかりと、奥歯の鋭い溝に食い込んでいた。さっきまで奥歯に食いついていた、アバンギャルドなバラ細工みたいな形をした金属片は、今ごろ僕の体内を巡っているのだろうか。舌に力を込め、とがらせた先端を肉片に押しつけてみる。彼女とも言えない相手と居酒屋で食べた、ジェノヴェーゼの味がした。 「たまにはおしゃれなお店でご飯食べようよ」 ふいにその子の声がヘッドフォンから聞こえてきたような気がした。終電間際の地下鉄は混んではいるが、誰かと肩が触れ合うほどでもない。吊革につかまって口腔を舌で探っていると、目の前に座って眠っていた、いかにも仕事が出来そうな印象の女の人の頭が、急に支えをなくしたように後ろへ傾いた。白い柔らかそうなマフラーの首もとから、皮膚の張った、肌のきれいな喉が見える。かすかに口唇が開いていて少し、いたたまれない。じろじろと見ているわけにもいかないのだが、こちらも歯に詰まった不審物と戯れているとうつむき加減になってしまうので、どうしてもその様子が視界に入ってくる。 だいぶ酔っているのか、白く透き通る喉から上は、ていねいに塗り分けたように赤い。この人をここまで酔わせた原因を想像してみる。飲まずにいられなかった女の事情。仕事のことか恋愛か、だいたいは、そんなところだろう。あるいは両方、社内の不倫とか。口唇の隙間から、桃色の舌が動いているのが見えた。目を閉じて、ふたりのやり取りを想像してみる。歯に詰まった鶏肉を追いかける。かすかなジェノヴェーゼの匂いが鼻腔から抜ける。 「妻が別れてくれないんだ」 「私、もう三十になるのよ。今までの四年間、返してくれるとでもいうの?」 「申し訳ない、もう少し待って欲しい」 「もうそのことばは聞きたくない」 その上司は離婚する気など、たぶんないのだ。この容姿を、肉体を、刹那のときめきや快楽を、自由に貪ることが出来る状態にしか興味がないのだろう。それにこの女の人と結婚して家庭を築くつもりもない。だからズルズルとこんな関係が続いてしまったのだ。やめた方がいいよ。そんな男と一緒になってもあなたは幸福にはなれない。まだ人生やり直せるよ、きっと。 「やめた方がいいって言ったの、きみ?」 また、ヘッドフォンに声が割り込んできたような気がした。薄目を開くと、女の人が、顎を上に傾けたまま僕の顔を怪訝そうに見ていた。口唇は閉じていたが、下顎が少し動いている。ガムを噛んでいるような、どこか控えめな動作だ。僕のはガムではなくて、食べかすみたいなものだが。そいつをまた、舌先でなぶる。 「やっぱり不倫には、未来がないのかな」 密閉式のヘッドフォンをしているから、外の声が聞こえるとは思えない。糸電話が声を伝えるように、ジェノヴェーゼの匂いが、女の人の意識を伝達する媒介になって、穴の開いた奥歯を鳴らしているみたいだ。そら耳や幻聴とは何かが違う、科学的に証明が出来そうな、妙な生々しさがあった。僕の意識も同じように、この人に伝わっているのだろうか。 「伝わってるわよ」 「え? でも、どうして、こんなテレパシーみたいな」 「私にも解らないけど、まあいいじゃない、酔っぱらいのお姉さんとテレパシーで会話してみるのも」 僕は試しに、奥歯から滲み出るジェノヴェーゼの匂いにことばを乗せてみた。もし、本当に僕の意識が伝わっているなら、右手でピアスにさわってみてください。 「どう? これでいい?」 お姉さんがピアスを指先でつつき、僕にしか判らないように口だけを少し動かして笑った。ジェノヴェーゼ食べたでしょ。わかるんですか? 右上の奥歯から、ジェノヴェーゼの味がするのよ。そんなものまで伝わっちゃうんですか? さあ、どうなんだろう、きみがジェノヴェーゼのことを考えているからじゃない? そうだとしたら、味覚や嗅覚だけじゃなくて、聴覚とか触覚も、伝えることが出来ても不思議じゃない。そもそも意識を伝達出来ること自体が不思議なんだけど。 「あの、不倫、してるんですか?」 「隠しても意味ないか。そうよ、不倫してるの、会社の上司と」 訊いてはみたが、そのあとを続けられない。そう考えた瞬間に、お姉さんが僕に質問した。じゃあ、きみは、大学生? いえ、専門です、映像関係の、おれ、CM、作りたいんですよ。そうか、将来はギョーカイ君か、いいね未来があって。お姉さんが俯いたが、すぐに上を向いて続けた。でも何か恥ずかしいわね、考えたことが全部伝わっちゃうなんて。思わずひとり不気味に笑ってうなずきそうになった。お姉さんは表情をほとんど崩さないで、ほぼ真っ直ぐ前を向いている。頭上に、結婚式場の広告があった。 「結婚じゃなくて、子供を産みたいのよ。どうせならあの人の子供をって思ってたんだけど、本当は誰でもいいのかも」 地下鉄が地上に出て、お姉さんの隣で英語のテキストを読んでいた予備校生っぽい女の子が席を立った。きみ、座ったら? もうすぐ降りるから、いいです。それじゃ急いで話さなきゃ。お姉さんが笑う。狭い隙間に身体の大きなサラリーマンが腰をおろすなり、大きく舟を漕ぎ始めた。 「シングル・マザーでも別に構わないの、母もそうだったし。赤ちゃんと一年や二年、仕事しないで暮らせるだけの貯金もあるし」 どうして、赤ちゃんだけが欲しいのだろう。夫という存在、家庭という場所、そういうものは不要なのだろうか。 「物心ついた時には母子家庭だったから、父とか夫って概念がよくわからないの。いなくても何とかここまで来られたし、母より上手くやれる自信もあるし」 初めて上司を見たとき、本能が、そのオスの子孫を残せと訴えたような気がして、その日のうちにベッドまで誘ったのだと、お姉さんが真っ直ぐ、僕の股間あたりを見つめて目を閉じた。ねえ、テレパシーで、きみの子孫を残してみようか? 突然ワインの匂いが、鼻から抜けて行った。薄い軟体動物のようなものが、舌に絡みついてくる。強く見つめられた先が、火傷しそうに熱く狭い亀裂に飲み込まれていく。お姉さんが、深くため息をついて、身体を震わせた。 「すごい、本当に、入ってるみたい」 腰が前後に動いてしまいそうになるのを懸命に抑え込み、イメージ化した運動を奥歯に集中させた。快感を感じる神経だけが機能しているかのような破壊的な絶頂感が、津波のように押し寄せてくる。吊革を握り潰してしまいそうだ。身体中が熱い。このままじゃ下着を汚してしまう、いやそんなこと構うもんか、そう思った矢先、目の前が真っ白になり、全身を鳥肌が覆った。自分の身体が、勢いよく踏み潰されたラミネートチューブになってしまったような気がした。 お姉さんは脚を組んで身体を小さく屈め、そのまましばらく動かなかった。膝に力が入らない。列車が次の駅に到着する。身体を起こしたお姉さんは、新生児をだき抱えるように両腕で輪を作り、僕に語りかけてきた。目には見えないけど、聞こえるでしょ、泣き声が。 ほら、パパよ。お姉さんが潤んだ目を閉じる。震える手をおそるおそる盛り上がり切ったジーンズに当ててみた。なぜか乾いたままだった。鶏肉はまだ取れない。奥歯で赤ん坊の泣き声が響く。
「やあ、佐平、なんだい、用事って」 「与太郎、佐平じゃないだろ」 「じゃあ、土塀か」 「はったおすぞ、この野郎。自分のおじさんなんだから、佐平おじさんと、きちんと呼びなよ」 「そっか、佐平、佐平おじさんと呼ばれたいか?」 「呼ばれたいとか呼ばれたくないとかじゃない、そう呼ぶのが当たり前だってんだよ」 「いくらだす?」 「何にも出さないよ!」 「うわ、このしみったれめ」 「しみったれとはなんだ。ん? なんだよばあさん? お茶が入った? 今は止めときなさい。こんなタイミングで出したら、佐平おじさんと呼んだら茶菓子が貰えるっていう妙な条件付けが出来ちまう」 「条件付けとは、ネズミみたいだね」 「ネズミの方がいくらか利口だよ、お前この前なんか、戸棚の中にある饅頭が取り出せないって困ってたじゃないか。ネズミならそうはいかないよ、どこからともなくスルスルッと入りこんで、気が付けばみんなかじられちまう」 「おおっ、佐平は大したもんだ」 「俺の話じゃない、ネズミの話だ――ってそうじゃないよ。また佐平と呼んでやがる。きちんと佐平おじさんと呼びな」 「分かった、佐平おじさん。さあ、なんか食わせろ」 「あのなぁ、与太郎。食わせない事もないが、働かざるもの食うべからず。お前もいい歳だ、一つ仕事をする気はないか?」 「仕事かい? そいつはうまいかい?」 「食い物じゃないよ!」 「うん、それはあたいも存じている。すごいだろう」 「凄かないよ。どんなに馬鹿だと言っても、それぐらいは存じといてもらわないと困るよ。それでな、まあ、どこへ就職しようたって、中卒からこっち何にもせずにぶらぶらしていたお前は、世間様から見ればすっかりニートだ。どこの会社も取ってはくれないだろうから、おじさんの仕事を手伝ってみなよ」 「おじさんの仕事? そいつは、いい着物を着て、金目のものをジャラジャラさせて、左団扇の客からどんどん金を巻き上げるようなタイプの仕事かい?」 「大体近いな。おじさんの商売は、ジャンク屋だ」 「ジャンク屋?」 「ああそうだ。汚れてもいいエプロンをつけて、メモリやCPUやヒートシンクをジャラジャラいわせて、紙袋を持っていない方の左手でアニメか電気屋ロゴの入った団扇をパタパタさせている汗だくの客を相手にするだろう」 「さよならっ」 「まあ待て与太郎、きちんと給料も出してやる。労働の楽しさが分かるし、そもそも自分で稼いだ金を手にするのはそりゃまあ嬉しいもんだ」 「本当かい? 嬉しくなかったら、立て替えるかい?」 「……給料を貰う以外に、何を立て替えるってんだよ」 「あたいの傷ついた心をさ」 「傷きゃしないよ、さあ、出かけるぞ」 「分かったよ、佐平」 「おじさんと――いや、これからは店長と呼びな」 「わかったよ、佐平おじさん店長」 「――さあ、ここがおじさんの店だ。立派なもんだろう」 「へー、ゴミ捨て場にしちゃあキレイだね」 「……店だよ」 「おじさん、バカ言っちゃいけないよ。店っていうのは、人が欲しくなりそうなものを置いてあるんだ。こんなガラクタじゃあ、消費者の需要が喚起されないよ」 「一つ覚えで妙な言い回しだけ知ってるな。いいんだよ、これで、買いたい奴は買って行くんだから」 「世の中には物好きがいるもんだね」 「マニアの中には、ジャンクパーツだけでマシンを組み立てるなんてのもいるんだ。捨てたもんじゃないさ」 「ふうん、これはなんだい? ゲジゲジの姿焼きかい?」 「メモリだよ」 「え? こんなに大きいのにかい?」 「昔のはこれぐらいあるんだよ。こら、髪の毛かきむしった手で触るんじゃないよ、静電気で壊れたらどうするんだ」 「やけに小さな扇風機だね?」 「冷却ファンだが、そいつはブンジリだな」 「文治がどうしたって?」 「ブンジリだよ。ブンブンうるさいけれど、全然冷えなくてCPUがジリジリ焼け出す」 「へぇ、うなぎ屋のうちわみたいだね――こっちのマウスは?」 「ああ、そいつはダメだ」 「ダメかい?」 「基盤のプリントミスでな、どっちのボタンを押しても右クリック扱いで、サブメニューが開いちまう」 「よくもまぁ、これだけガラクタを集めたね。いよっ、日本一!」 「褒められてる気がしないな」 「うん、ほめてない」 「だろうと思ったけどな。まあ流石にこのレベルのジャンクは、仕入れ値なんてものはない、タダだったりタダ同然だったりするもんだ。お前がどんなに負けても、売れればめっけものから、店番やってみな」 「うん」 「――見れば見るほどガラクタばっかりだなぁ。あたいもバカだバカだって言われてるけど、こんなのお金出して買うヤツの方がよっぽどバカだね。バカがバカから搾取する、損するも得するもバカバカりなり」 「すみません」 「おお、来たなバカ」 「バカ?」 「いやいや、こっちの話。いらっしゃい、お二階へご案内!」 「二階はソフマップじゃないか」 「そっちの方がまだマシなものを売ってる」 「商売やってんでしょう、よその店勧めてどうするんですか」 「いやいや、人類皆平等、しかるに人類一人死ぬごとに、遺産が六十億分の一」 「縁起でもない。それより、そのメモリを見せて下さい」 「あいよ、ゲジゲジ一匹お買い上げ」 「まだ買うとは決めてないですよ。うーん、八メガ五〇円かぁ……動作確認はしてないんですよね」 「大丈夫だよ、今持った時、パチッって火花が散ったから」 「なんだ、それじゃ静電気喰らってダメになったって事じゃないか!」 「買いますか? 買ってください。買え買え」 「嫌ですよ、誰が完全に壊れたメモリなんか」 「おまけに、猿の絵の描いたマウスパッドあげるから」 「今時バザール・デ・ゴザールなんてちっとも嬉しくないよ!」 「あらら、行っちゃった。ひどい客だなぁ」 「おうっ、ジャンク屋!」 「あ、別なのが来た」 「その冷却ファンを見せてみろぃ」 「うん」 「ふーーーーーっ」 「何やってるんですか? 汚い息なんか吹きかけて」 「汚いだけ余計だ。ファンの回り方を確かめてんだが、なんだよこれ、軸が曲がってガタガタじゃねえか」 「ううん、曲がっちゃいないよ」 「良く見ろよ、ほらこんなにガタガタ回るのは、軸が曲がっているより他にねえだろう」 「そいつはうなぎと一緒だから、どんなに曲がって見えても、串を打てばしゃんとする」 「うなぎを食いたきゃ、うなぎ屋に行かぁな。じゃあ、そっちのフラッシュメモリはどうだ。USB接続の」 「ああ、これはフラッシュメモリじゃありません、MPSプレイヤーの半分切れたのです」 「じゃあ、こっちのLANケーブルはどうだ?」 「ケーブルじゃなくて、きしめんです」 「なんでジャンク屋が食べ物売ってんだよ」 「多角経営の時代だからね」 「しょうがねえな。おっ、そっちのノーパソはなかなか良さそうじゃねえか」 「買うかい?」 「ちゃんと確認してからだ――ん? ロックが壊れてるのかな? 開かない。おい、そっち持ってくれ」 「はいっ」 「うーーーーん、うーーーーーん、うーーーーーーーん! なんで開かねえんだ? うーーーーーーーーん!」 「開かないのも無理ありません!」 「うーーーーーん、なんでだ!」 「デザイン用の木製モックアップですから!」 「……それを早く言えよ」 「いやぁ、モックアップが開いたら何が出て来るのかと思って」 「何も出やしねえよ。ったく、ゴミばっかりだな。ちゃんと開くのはねえのか、ちゃんと」 「はい、このマウスなら、必ずサブメニューが開きます」
明日があるのかすらわからない、だけど、明日を迎えるタメに今日も僕達は戦う・・・。 夜があけ、朝日がすぅ・・・と上り始めてくる。 最初に目覚めたのはリーダー格、カイトだった。 「うん・・・っ!ふわぁ・・・」 油断しまくりの情けない声を上げる。 一番最初に目覚めたとはいえ、普段は一番最後に目覚めるのだがなぜか今日は最初だったのだ。 そして次に目覚めたのがライトについてきている少女レーラで、急にスッと起き上がりまだ寝たりないといわんばかりに目をこする。 「ん・・・。」 ただ一言、普段もこんな感じなのでカイトもなれている。 「おはよう、レーラ、これからちょっと腹ごしらえしてから西の大地に向かおうと思うんだけど、いいかな?」 小さくコクンと頷く。 すると近くに置いてあるかばんからフライパンと卵と少量ながらの調味料を取り出し、携帯用の加熱剤を取り出し、石を打ち火花を飛ばす、いわゆる火打ち石という、その火花を出している石を加熱剤に近付け火をおこす。 いつものことなので手馴れて手つきで作業を進める。 火のついた加熱剤にフライパンを近付け、ほどよく温まった頃合いを見計らって保存用の生肉を焼き始める。 次第に肉が油を出し始め、ジュージューという香ばしい音があたりに鳴り響く。 普段は栄養摂取のタメだけの携帯食料を食べているのだが、今日は少し豪勢にしてみたらしい。 「美味しそう・・・。」 横でチョコンと座って見ていたレーラがつぶやく。 「そうだね、もーすぐ出来るから待っててね♪」 二人とも上機嫌で、肉が焼けるのを待っていた。 そして肉が程よく焼けた瞬間、使いまわしている皿を取り出し、その上に載せる。 「はいっ、出来上がりぃ!さっ、冷める前に食べよう?」 軽やかなステップで寝ていた場所へと移動する。 持っている皿をレーラに差し出し、かばんからナイフとフォークを取り出す。 それもレーラに渡し、食事を開始する。 「いただききます♪」 カイトが嬉しそうにしている横で小さな声でレーラが頂きますといったその時・・・。 ドタドタドタドタドタドタ・・・!! 上機嫌だった表情が一瞬で冷め切り、不機嫌な表情に変わり、音のする方向へと目を向ける。 どうやら野盗のようで昔ならでは馬には乗っておらず現代的にバイクにのって騒音やおせじでも上品とはいえないくらいの汚く低い声をカイト達に吐き散らす。 「オラオラー!!お前等持ってるものを置いていけゴラァ!!!」 すると腰にかけている本人とはつりあわない剣を抜き、二人に切りかかった、が 「ヤレヤレ・・・。」 そういうと持っていた皿を地面におき、レーラを抱え後ろへバックステップ。 一瞬の動きで野盗は二人を見失う、が、すぐに見つけ、バイクをそちらの方向へと向け、エンジンをふかし飛ばす。 バイクの速度はものすごく速いのだが・・・。 「もう、いいよ?」 冷たく冷静に言い放ち、バイクがカイトの横に来る二歩くらい手前になると素早く足を踏み込み相手の剣よりも早く腹へと深々と右手のパンチを突き刺す。 当然バイクから体が浮き、バイクだけ無人の方向へ走り、途中で横に倒れ、タイヤだけ回り、やがてとまる。 その間カイトは野盗に深々と突き刺した右手を抜き、野盗はドシャァ・・・と音を立て地面に倒れる。 すでに意識はなく、目は白くなり生死すらわからない状態になっていた。 「さて・・・それじゃ戦利品の回収と行こうかレーラ。」 不機嫌な表情を少し崩し相手の持っている金目のものを片っ端から取っていく。 この様だけをみれば野盗はどちらかわからない。 とりあえずこの相手とは不釣合いの剣を取り、持っていた金を取り、持ち物袋らしきものから食料を取る、が、生きられるだけの食料だけは残して、それ以外は全てとる。 「まぁ黒字みたいだし、いいか・・・、って肉がバイクでつぶれてるっ!?」 カイトの見ている視線の先はバイクの倒れている方向。 そしてそのバイクの倒れている地点にはバイクにつぶれて無残な姿と化した二つの皿と肉。 無論ライトは不機嫌である、が、その不機嫌さ以上にレーラが不機嫌だった。 「・・・#」 無言のまま倒れて気絶している敵を蹴る、これでもかというくらいに。 しかしカイトとてこの敵に不快心をもっている、なので当然レーラの行為を止めなかった。 むしろ自分もやってやりたくなっていたくらいであった。 やらなかった理由は敵が肉を持っていたこともあるのだが、それはこの際置いとこう。 レーラが蹴り飽きたみたいだ。 「もういい?・・・それじゃご飯は少し我慢して行こうか・・♪」 元気を出してみてはいるものの落ち込んでいるタメ声も少し元気がなかったが落ちている肉もまだ食べられると言わんばかりに拾ってゴミだけを手ではらい紐(ひも)にしばって腰につるしていた、どうやら干し肉にするようだ。 この光景もはたから見ればただの貧乏性としか見えないだろうが、これも立派な生きるタメの手段である、確かに味は携帯用の食料よりかはよっぽどマシなのだ、そもそも携帯用食料は栄養の塊(かたまり)みたいなものなのでかなりマズイのだ、味を例えるのならとても苦い粉薬である。 慣れていない人なら平気で吐くだろう。 まぁつまりマズイのだ。 だからそれを食べるくらいなら落ちた肉でも食べるほうがよっぽどマシなのだろう。 その肉をぶらぶらと腰につりながらレーラを肩車しながら歩き始めた。 目的は今日を生き抜くこと、絶対に明日を迎えるということ、つまり、平和なところを探している。 つまり生きることに不自由のない村などである。 何不自由の無い暮らしとはいわないのだが、ある程度不自由がある。 つまり普通のトコよりちょっとだけ自由なトコで、自由気ままに暮らしたいのだとレーラにはいっていた。 しかし実際もっと深い事情があるのだが、それはまた別の話・・・。 今を生きる、それが二人のモットー、生きるために、人生を楽しむタメにこれからも二人は歩いていくだろう・・・。 ○作者附記: 初投稿です、皆さんはじめましてm(_ _)m 即興の無修正作品なのですがいかがでしょうか?(苦笑 もし楽しんでいただければ嬉しく思います〜。 即興で作って申し訳ないのですが・・・(汗 どうでしょう?もし良かったら感想など下されば俄然やる気が出ます〜。 それでは皆さん、また逢いましょう^^ もし以後こういう点は止めて欲しいという個所がありましたら止めますので言ってください(汗 それでは体調等気をつけながら仕事の方頑張ってください^^ 失礼しました。