ビッチ
るるるぶ☆どっぐちゃん
男共は女を相手にするよりも可愛い男の子を可愛がるほうが性に合っていると見えて、どこからか、まあファンの取り巻き連中から見繕ってるんだろうけれども、4,5人ばかりも連れてきて、それでもって連日飽きもせず行為に耽っている。一体どこから持ってくるのか分らないがチェックのミニスカートだのレオタードだの、セーラー服だの何ので、まあ全くもって楽しげなのであった。男の子達もまああれなもので、綺麗に化粧して貰ってスカートはかせて貰って、髪の毛を可愛く結わいて貰ってそれでぽわんとなってしまっていて、後ろ手に縛られている頃にはかわいらしいあれをかっちかちにしてしまっていて、すすんでおとこたちのをしゃぶりだすのだからまあなんというかあれであって、ともかく恐れ入る。
はやってますからなあ。廊下で落ち合ったヤスダは、ポルポに資料を渡しながらそう言った。はやっているんですよ、ああいうの。ふうん、そうなの。ええ。まあ、おれが若い頃も、流行ってたんだけどね。へえ、そうなんすか。へえ。へええ。
資料をべらべらめくり、数字を確認する。ポルポの思ったとおりの数字だった。
「ヤスダ、これ、見た?」
「見ました」
「大変なことになっているね」
「ええ、そうっすね。どうしましょうね」
「まあ、なんとかするしか無いんだけどな。とりあえず行ってくる」
ポルポは渡り廊下を抜けて部屋の前に立つ。あー、あー、と咳払いしてノックした。中から大きな声が聞こえる。怒鳴り声、叫び声。部屋の外にいてもそれれが聞こえてくる。ポルポはドアを開ける。
「この××××!!」
ミッチは長い金髪を振り乱しながら叫んでいた。
「まったくもって期待外れもいいとこね! あんたなんて@@@@@で××××なんだからとっとと#####を%%%%して出て行きな!!」
「なんだとこの@@@@@@め! おまえなんて####が*****じゃないか!!」
ステッペン・ソルボーダグ監督はテーブルを蹴倒しながらそう怒鳴った。
「ええと、まあ、まあ、お二人とも、落ち着いて」
そう言いながらポルポは二人の間に割って入ったが、ステッペン監督はポルポを跳ね飛ばし、ミッチの金髪を掴んだ。
「こうしてやる!!」
「痛い!! 放せこの@@@@!!」
「死ね! 死ね!」
ステッペン監督は怒鳴りながらミッチの頬にげんこつをくれた。がつん、がつん。鈍い音が響くがミッチの方はミッチの方で全くひるまず、長い足をいっぱいに伸ばして蹴っ飛ばしてる。靴が脱げ、黒いストッキングが露になった。
がごん。ポルポが椅子をステッペン監督の頭に振り下ろして、ようやく二人は離れた。
「このうんこ野郎ども」
肩で息をしながら、頭からだらだらと血を流しながら、ステッペン監督はゆっくりと歩き出した。歩き出すと、ベルトが壊れてしまっていたらしく、ズボンがずるりと下がった。たくしあげ、ステッペン監督はちくしょう、と一言吐き捨てるように言った。それから肩越しにミッチを睨むと、
「二度と来るか馬鹿ものどもめ。ファッキュー」
そう言い残して部屋から出て行った。
ミッチはソファにどすん、と腰を下ろした。鼻血がだらだらと溢れていた。
「ティッシュ、ある?」
「あるよ、どうぞ」
「ありがと」
ちん、と音を立ててミッチは鼻をかんだ。
「たいしたことないわね。たいしたことないんだわ、まったく。まったくたいしたことない。見掛け倒し、とはまさにこのことよ。少しは出来る男と思って期待してたのに。全くたいしたことないわ」
20世紀最も偉大であった天才映像作家ステッペン・ソルボーダグ監督と、今世紀初のカリスマシンガーミッチは最初非常にうまくやっていた。意欲的なプロモーションビデオを撮るんだ、とミッチはとてもはしゃいでいた。
「見てよこのコンテ。あの方は凄いわね。とても凄いわ。あの方とならやれそう。凄いものを作れそう。とってもとっても楽しいわ」
最初のうちは、そうミッチは言っていた。そしてどんどん金を使い、ビデオを撮り始めた。
「これ見て、ねえ、これ見てよ。本当に凄いわ。めちゃくちゃカッコいいわ。すごくいかしてる。こういうのが撮りたかったのよ! こういうのよ!」
しかしまあ結局ミッチのいつもの病気が出た。監督に対してだんだん不満を言うようになった。
「なにか、違うのよねえ」
それは加速度的にその激しさを増していき、そして、今日の、この事態を迎えた。
「で、どうする?」
「なにが」
ティッシュを鼻に詰めながら、ミッチは答える。
「なにが、ってビデオだよ。どうするの、まだ完成して無いだろ」
「ああ、勿論撮り直しよ」
「全部?」
「決まっているじゃない」
「ああ、そう。分ったよ」
ポルポは答えながら心中で計算を始めた。昔から数学が良く出来、大学で経済まで学んだ彼なので、すぐ絶望的な数字を算出することが出来た。
だが彼は怯まないのだった。彼は芸術に身を捧げた戦士であり、最後まで決して諦めない闘志を持っており、すぐに状況を打破するべく、優れた頭脳をフル回転させて、どうにかこの状況の脱出口を探すべく考え始めた。
彼は芸術に身を捧げた戦士であった。自分に才能などないことを知っておきながら、しかし芸術に身を捧げた戦士であった。セックスドラッグなどに安易に逃げない、そんなことをして安っぽいデカダンを語ったりしない。何万CDを枚売っても、結局借金しか残らない。しかしそれでも彼は諦めないのであった。
「ええと、宜しいですか」
部屋の外からヤスダの声がした。
「お客さんです」
「今駄目だよ」
「ええと、ミッチさんの、お父様です」
「お父様?!」
ミッチは飛び上がり、ドアへと走り出した。
「お父様!」
「やあミッチ。久しぶりだね」
父親と腕組みをして、部屋の中へとミッチが入ってくる。
「お父様あ、ミッチは寂しかったわあ」
「ごめんなあ、でもお父さんはひとつのところにはいられないからなあ。お父さんは、ひとつのところに縛られては生きていけないからなあ」
「いいのよ、戻ってきてくれてうれしいの。ほらポルポ、早く出て行ってよ、久しぶりに親子の再会なんだから」
「はいはい」
そう言ってポルポはろくでなしの父親の脇をすり抜け、外へと出た。
「おとうさまあ、ほんとうに、ミッチは本当におとうさまが、好きですわあ」
「ははははははは」
ポルポは扉を背にへたり込んだ。
「どうでした」
「まあ、どうもこうもないよ」
ポルポはタバコを取り出す。
「俺で良かったら、しゃぶってあげることくらいはしますけど」
「しゃぶる、って、おまえが?」
「ええ」
「いや、いいよ」
「駄目ですか? 俺じゃ」
「いや、そうじゃないよ。でも駄目なんだ。俺、インポだからな」
「え、そうなんですか」
「ははは」
ポルポはライターを手に取る。しかし火をつけることは出来なかった。
「ポルポさん、大変です。銀行の方が」
廊下の向こうから大声が聞こえた。そしてすぐにスーツを着た男たちにポルポは取り囲まれた。
「すいませんが、ポルポさん。返済の期限はもうとっくに過ぎているんですがねえ。どうしてくださいますか」
ポルポは顎を上げ、男たちを仰ぎ見た。
背後からは親子の声が聞こえる。
(ああ、おとうさまあ、ほんとうにだいすきぃ。ほんとうに、ほんとうにすきよ。ほら、こんなに)
(見せて御覧なさい。お父さんに全てを、見せてごらん)
(いやあ、恥ずかしい。だって、だってこんなに。でも本当に好きよ。ほら、本当に。あ、あ、あ、あ、おとうさまあ、あ、そんなに、いや、すごい、だめ、恥ずかしい、でも、ああ、あ、あ、あ、いい。すごい、とても、ああ、ほんとうに、すごいわおとうさま、こんなに、ミッチ、こんなに、ああ、いや、なに、すき、だいすきよう、だいすきなの、ああ、いい、いい、きもちいい)
「ポルポさん、バンドの男達が、なんか子供をつれこんでて」
スーツの男たちの背後から別の声が聞こえる。
「知ってるよ」
「なんかいたずらしてたらしくて、それでなんかその最中に男の子がなんか首しめられちゃったみたいで、いま、救急車呼んでるんですけど、男達みんな逃げちゃって」
「そうか。分ったよ」
「ポルポさん、お取り込み中申し訳在りませんが、返済の方はどうなりますでしょうか」
「ポルポさん」
「ポルポさん」
(おとうさまあ、ああ、おとうさまあ!)
「みんな少し黙ってくれ」
ポルポは扉にもたれかかり、言った。
「大丈夫ですよ。すぐに、また、素晴らしいアルバムが出ます。そうしたらすぐにずっと大きな利子を付けて返しますよ。大丈夫ですよ。本当に素晴らしい傑作ですから」
ポルポは静かに語った。男たちは、黙った。ポルポは静かに続ける。静かに、静かに。自分の声で聞こえなくなるようなことがないように、静かに。
(ああ、あ、あ、お、とう、さ、まあ!)
「次回作はもう殆ど出来上がっています。素晴らしい出来ですよ」
ミッチの声を聞きながら、ポルポは語った。彼のペニスはがちがちに、痛いほど勃起していた。