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3000字小説バトル

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3000字小説バトル
第86回バトル 作品

参加作品一覧

(2008年 2月)
文字数
1
3737☆★
3000
2
ごんぱち
3000
3
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん

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竹取物語:その後
3737☆★

 “I HAVE A DREAM ONE DAY...”と声が響いて、聴衆は閑静から歓声に沸く。何か志を持っている人はどうやら、強いらしくて“ONE DAY”と具体的な期日を示さずとも、聴衆の心を貫くのだ。『ペンは剣より毅し』とかいわれているし、『少年よ、大志を抱け!』とかもそうだ。けれども、今のご時世、膿んでいて、次々膿みを生み続けて、きっと膿で海が埋め尽くされても、誰も何も言わないだろう。それに、人間は「止まれない」生き物らしい。生きいて、息をしていて、粋がって、活きて、逝くことになる。止まれないから磨耗して、朦朧として、老人になる。そのときに、“I HAVE A DREAM ONE DAY...”と言える人は少ないのかもしれない。
 そんなことをぼんやり考えながら、「いつか」を待っている。「いつか」が明日でないことも、掴み取らなきゃいけないことも、気づいていたけど気がつかないふりをした。凍てつく夜で満月の光だけは貫くように……といきたいところだが、街灯と同じように見えるばかりで自販機の光にもかき消されてしまっていた。「いつか」一体いつになったらくるんだろう。「いつか」はいつになったら見えるだろうか。手を伸ばしても街灯にも月にも手は届かなくて、月を目印に飛ぶ種類の蝶が迷わないのかなとも少しおもった。
 “ONE DAY”とはいっても過去のことなのだけれども、とある孤児院に女の子がわけありなのかやってきた。小さい頃としか覚えていないけども、園の玄関口の笹の陰から現れた彼女は、偉くかわいかった。単に周りが垢抜けていなかっただけなのだろうけれども。
 引き取られた先で彼女はすくすく育ち、すらりと育った。彼女は何かって言うと無茶を言って男の子たちを手玉にとって遊んでは、それなのに周りのアイドルだった。僕だってすきだったわけであるが、その頃はなぜか彼女が怖かった。まぶしい瞳で目の前の孤児をあやす彼女。それなのに、あの瞳で何人の男が嘆いたことだろう。

 だから、ただ、怖かった。

 「ねぇ、あの子のこと嫌いなのか?」
 偽の親友が聞いてくる。俺の答えは実にシンプル。
 「べつに」
 「マジで!!」
 そいつが何だかしらないが、崖から転落して、腰の骨を折って下半身不随になった。それでぼんやり思い出した。子安貝の逸話。
 その話をしても、彼女はそうですかというだけで、いつもと変わらぬ笑顔だった。ただし、自分の中で「邪魔者が一人減ったな」という感慨が残った。そしてそれはどんなものより得がたい感じだった。俺は次々合コンを彼女にセッティングして、彼女の幸せを願う老夫婦には「私たちじゃいいお見合い相手探してあげられないものね」といっていた。
 何人も歯噛みして、何人も手に入らないとぐずって、最終的に諦める。
 俺は一切傷つかない。ただ邪魔者が去っていく。それだけ。
 
 もうすこしで彼女を手にできる。

 ある日そんな彼女に「もうサヨナラしよう」と言われた。理由がわからなくて、「なんで??」とあの時は何度も食い下がった。見事なダメ男っぷりである。
 「お見合い話がね、きたの。」と、『はい、あなたに今までのお礼』とか言われながら、何かを手渡された。そしてなぜか彼女の養父母にも渡してほしいと言われたものまで渡された。瞳を見て、もう心を凍てつかせることにした。手に入れられるというところでこの女は逃げていく。

 またあの時と一緒か。

 彼女の瞳は、今日の満月よりもかすんで見えた。その手前の一瞬まで確かにいたのに、急に輪郭をおぼろげに、そして色はモノクロになってしまった。
 僕にはなぜか似たような経験を何度も何度もしてきている。
 諦めきれずに彼女を追いかけ続けている。次に彼女に会えるのはいつだろうか。月もかすんでしまっているし、なんでも「月の人」などいないことは科学的に証明されだしているらしいからよく分からない。
 ただ、彼女の養父母は投獄された。さらに、彼女と別れた旦那もDVで投獄された。
 俺が持たされたのは、彼女が売春婦をしてる映像。彼女の旦那も客として混じっていた。吐き気がして、投げ捨てようか…そう思ったけど警察に突き出した。俺は彼女を抱いて「富士山の約束忘れたの?」と非難めいた、そうして穏やかな声とそしてその目を見つめる。
 昔の俺ならばただ泣いて、まぶしい光に消えていく彼女を天女にした。
 昔の俺ならばただ喚いて、彼女にあの日のようになきつくだけだった。
 俺は彼女にもう一度会えてよかった。たとえ不治の病でも。彼女といればいいんだ。短い旅になりそうだけどな…。



「上、いかにいたしましょう」
「上……」
「姫の手紙をみて翁から、手紙が来ておりまする」
 私はそれを紐解いて、中身を見る
 不死の薬を飲んで待てとのことだった

 ほんの少しの転寝だ、では、先ほど見たのは夢なのか

 これをあたえるなら「さぬきの造」の夫婦が似つかわしいことであろう
一度しかあえなかった彼女であるが、一度は会えたのであるから……

 ――それにしてもなんと神々しい月夜だろう
 ――それにしてもなんという夢であろう

 月の世界があのようなきらびやかな世界ならば。あんな風に空へと向かって伸びる建物を生み出す世界ならば。なるほど確かに帰ってしまうであろう。そうして、私ではいききられぬ場所だ。もしも、あれが現実ならば、私は生きながらえたとしても彼女には会えないだろう。それに「上」と呼ばれる者のままだろうか。否、あるまい。
 彼女の世界には、道を明るくし、石となにやら輝いたもので飾られている。一瞬の光のなかで、唯一彼女の見せたあの睨む顔。あれだけはもう一度だけ目にしたい。彼女は「富士山のこと忘れたの」といっていた。ならば、あの煙にのせてしまおう。遠く遠くに流れていって、いつか彼女に届けばいい。



 そうして時は流れていく。彼は上から公達に、公達から武者に、武者から財閥瓦解の時期に、戦争もあって、高度経済成長も見届けた。徐々に下へ下へ。そしていつでも一人ぼっちさを抱えて。もちろん昔の記憶など何もないけれども。
 一方その頃、研究室育ちのカグヤ001は平安時代に放り込まれた。本当の名前は自分でも解らない。ただ偶然「なよ竹のかぐや姫」と名づけられて、平安時代をすごした。彼らにはまぶしいほどの時間結合の際の次元のゆがみ。それも機械の故障が起こってしまって、私が流れ着いたのは本当に戻るまえの1000年以上前の世界。どうやら原始的に原油を使っているみたいだし、機械も作成してないし、SOS信号を流そうかと思った。そうして一人で待っていたら、「おやおや、まあまあ」とどこかの誰かに拾われて、「上」がしがない一般人で、けれども心は相変わらず一人ぼっちで。とりあえずあの彼を見つけた。
 彼によってくるのは邪鬼ばっかりで、それを払いのけていくのが精一杯。私はAIDSの免疫抗体を持っていたから問題ないけど彼はAIDSになってしまって、彼に抱かれたときに思わず悪態をついてしまった。『竹取物語』の帝のその後を寝物語に聞かされていたから、「富士山のこと忘れたの?」とぼやいた。それでも彼は笑っていた。それでも彼はまぶしそうに私をみた。

 ただ失うのがこわかった。SOSを出した。

 彼とその後、迎えの来るまでの間だけ思い出が増えていく。そうして彼を見送って、彼が煙になっていくのを目にした。彼は富士山に登っていく。どうやら今度は私が追いかける番らしい。
竹取物語:その後 3737☆★

DV長屋
ごんぱち

「こんちは、大家さん」
「おお、八。随分と遅かったじゃないか」
「いえね、うちのかかあの野郎が、出がけにくしゃみをしやがってね、縁起が悪いんで景気づけに二、三発殴ってから来たんでさぁ」
「……のっけからこれだよ」
「は?」
「八、ちょっとそこへ座りなさい。座布団をお当て」
「へいへいっと……こりゃあ綿が少なくって、随分薄い座布団だね、座布団の薄造りだよ。庖丁人の技が光るね」
「文句があるなら、そこの板の間に生の小豆でもまいて正座させてやろうか?」
「じょ、冗談ですよ。はい、座りました――ああ、今日は暖かいんで、冷やでお願いしまさぁ。貧乏徳利のまま、湯のみだけ持って来りゃあこっちで勝手にやるんで」
「……誰が酒なんか出すって言った。小言があるんだよ」
「へ? あっし?」
「他に誰がいるんだよ」
「あっしが、大家さんに?」
「主客が逆だよ。お前を叱ろうてんだ」
「はぁ……あっしが、何かやらかしましたか」
「何かもないもんだ、昨日も随分と派手にやってたろう、お前の女房の顔に痣が出来てたぞ。それに今し方、出がけにも殴ったと言ったな?」
「あー、あれは、愛情表現ってヤツで」
「お前の家では、『この野郎ぶち殺す』って叫んで皿の五、六枚割りつつイタすのかい」
「まあ人生色々、プレイも色々と元首相も言っていたし……」
「ごまかすなよ、喧嘩だろう。女房を殴ったな?」
「いえ、そんな、こう、手を動かしたら、そこにかかあのお多福面があったんで――そ、そんな怖い顔しないで下さいよ」
「確かにお前の父親はお前を殴ったし、お前の母親を殴ったよ。それが幼児期の心的外傷になっていて、お前が女房を殴る事に抵抗がないのは分かる。しかしな、理で考えなよ、殴って良い相手なんてのが本当にいると思うかい」
「サンドバックか、殴られ屋なら」
「殴られ屋だって、本当に殴られたくてやってる訳じゃないだろう」
「そりゃあ……でも、あいつの方もね、どうもなっちゃいねえんで。あっしが寝てるってのに、子供をギャアギャアギャアギャア騒がせるわ、飯ぃ作るのは遅いわ、掃除はやり残しが多いわ、それを注意してやるといちいち口応えするわ――」
「へえ、そうかい、口応えするかい、それはなっちゃないね」
「でしょう?」
「だったらな、良い方法がある」
「えっ、なんかあるんで?」
「半端に殴るのは良くないな。包丁で刺してやりな、手頃なのがなければ貸すよ。良い出刃があるんだ。これで二度と口応えしない」
「いっ、ちょっ、ちょっと、そんな穏やかじゃねえ、人殺しになっちまう」
「これは妙な事を言うね、言い分も聞かないで、ぶん殴って黙らせて、その事をヘラヘラ笑いながら話せるような、そんな相手を人間扱いしているって言うのかい」
「ですけど、その……」
「あたしの言う事が気に入らないかい、だったらあたしを殴るかい? 殴って黙らせるかい?」
「い、いえ、とんでもない」
「あたしとお前の女房と何が違う、ああ? 殴って黙らされる事が、どんだけ相手を傷つけているか!」
「す、すみません」
「謝るのはあたしじゃないだろう」
「ごめんなさい」
「って、うちの婆さんに謝ってどうすんだよ――あー、気にするな、婆さん、関係ないから――自分の女房に謝れってんだよ」
「ああ、そっか。でも、あいつはそういう事をやると付け上がって――」
「付け上がってるのはお前の方だよ。良いかい、ここだけの話だよ? あたしはね、今日お前が改心しなけりゃ、お前たちを離縁させるつもりだよ」
「えっ、ええええっ! そ、そんな、それは困る!」
「女房に逃げられたとなってみな。体裁悪い事この上ないよ。それにお前、家事なんか全然出来ないだろう? あまつさえ、夫の暴力が原因の離婚だ、慰謝料に養育費で給金の半分で済むかどうか」
「分かりました、分かりました、心を入れ替えます! もう絶対殴ったりしません」
「最初からそう言えば良いんだよ」
「ですが、その」
「なんだい」
「どうしても殴りたくなった時は……いやね、ヒマな時なんかにあいつの顔を見てると、こうフラフラ――ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「いや、怒ってる訳じゃない。確かに今までを考えるとこのまま帰しても……そうだ、こうしな」
「そうします」
「何も言ってないだろう」
「へえ、あっしも何も聞いてない」
「……何か言われたら、最初に一度は折れてみな」
「折れるんですかい?」
「そうだよ。おかしいと思っても相手の言う通りにしてみるのさ」
「ですが、それじゃあ……」
「言いたい事は分かる。だから、最初に一度だけ、だ。後は、気に入らなければやらなくて構わない。お前が気に入らないって事を分かっていて、それでもまだガタガタ言うようなら」
「ぶん殴って良いんですね」
「そうじゃないよ、あたしを呼びな。意見をしてやるから」
「そんな言いつけるような事は男らしくねえんだが」
「女を殴る方が余程男らしくないよ。いいね、一度で良いから折れてみな、一度で良いから!」

「――やれやれ、こってり絞られちまった。気に入らねえヤツを殴るぐらい良いじゃねえかと思うけどなぁ。オヤジなんか、おっかあを滝壺に叩き落としたとか、薪で殴りつけたとかさんざ自慢してやがったじゃねえか。大体、そんなに嫌なら殴り返して来れば良いんだ。コソコソ大家から手を回すなんざぁ、臆病者のやり口だよ……でもまあ、離縁まで言われちゃあそりゃ困るよな。子供もいるってのに――おう、帰ったぞ」
「お帰り」
「晩飯はまだか?」
「止しとくれよ、まだ夕暮れにもなってないじゃないか」
「うるせえ! おれが喰いたい時が飯時分だ、言う事聞きやがらねえと――って、いけねえ、いけねえ、一度は折れる一度は折れる――あー、良いんだ、良いんだ、いつまでも待つから、明日の朝までだって待つ」
「朝まで待ったら朝飯になっちまうよ。早めに用意するから待ってておくれ」
「お、おう……なんだよ、いつもはブツブツ言いながら作るくせに、今日は妙に素直だな。そうか、こっちが折れると、あっちも折れて来るのか――おい、ケン坊、どうした、何を泣き出してやがる? おい、おい! かかあ!」
「なんだい?」
「ケン坊が泣いてやがる、黙らせろ」
「おむつは替えたばっかりだし、多分むずかってるだけだよ。ちょっとあやしてくれないかい」
「この野郎、一家の大黒柱に子守をしろだぁ? ふざけやが――あー、いやいや、分かった。ほーら、よーし、よーし、あばばばば、よーし、よーし……おっ、泣き止みやがった。あははは、笑ってやがる。よーしよーし、よーしよーし……あれ、寝ちゃった」
「寝かしつけてくれたのかい、ありがとう、助かったよ」
「いや、これぐらいどうって事ねえよ」
「そろそろ仕度出来るよ」
「ありがてぇ。いただくとするか」
「はい、どうぞ」
「おう。ん――んまいな」
「そうかい、良かった」
「その……なんだ、大家から言われてな」
「そうかい」
「悪かったな、何だか、今まで色々と」
「分かってくれれば良いんだよ。言いつけるみたいな事して済まなかったね」
「いや、悪いのはおれだ、考えてみればこんな稼ぎの悪い、見てくれも良くねえ男のところに、よくも来てくれたもんだ、ってな」
「見てくれなら、こっちも大したもんじゃないよ。手際だって、良くはないし」
「いいや、おれのほうがまずい面だ」
「あたしだよ」
「おれだって言って――ああ、いやいや、すまねえ、確かにお前の方が、ずぅーーっとまずい面だ」
DV長屋 ごんぱち

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