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第16回中高生1000字小説バトル Entry2

さよなら


 「さようなら」
 
 そう言って、私は彼と別れた。
 夢があったから。私は彼よりも夢を選んでしまったんだ。
 彼は最後の最後まで私を止めた。
 でも、私は……。
 ロス行きの飛行機の中、考えてみる。彼との思い出を。
 喧嘩もいっぱいしたし、よく今まで続いてたなと思うほど険悪になったこともあった。
 二回ぐらい意地で別れちゃったこともあったけど、やっぱり彼よりもいい人はいなくって。彼もそれは同じだったらしく、一晩二人で飲み明かしたこともあったけ。
 プロポーズされて、でも私には夢があって。私の都合で彼に待っててとは言えないから、私は別れることに決めたんだ。
 もしかしたら、この先彼には私よりもずっとすてきな人が現れるかもしれないしね。束縛なんか、出来ないよ。
 幸せになってね。
 それが、私の願い。
 私は彼に会うまではそんなに人を好きになったことがなかったから、辛いけど彼のためだと思うから。
 ただ、願う。
 幸せになって下さいと。
 
 ピリリリリ

「!」
 ヤバイ、携帯の電源入れたままだ。
 私のことを現実へと引き戻してくれたその音を止めようと、慌てて通話ボタンを押す。
 まだ、飛行機は出てないから平気だよね?
「はい」
『……俺、待ってるからな』
「!?」
 彼だった。
 待ってる? 私のことを?
「ちょ、」
『向こうで浮気なんかするなよ。俺、何年でも、待ってるからな。じゃっっっ』
「まって……」
 一方的に喋られて、一方的にきられてしまった。
 私は彼の慌てように、ただただ唖然とするばかりだった。
 でも、次の瞬間。
「……ははは……」
 自然と笑いが零れてしまう。隣の人に変な目で見られちゃったけど、気になんかしていられなかった。
 ただ、嬉くて。
 笑いながら、涙が出てくるのを感じた。
 絶対に泣かないようにしようって思ってたのにね。
 浮気なんか、するわけないじゃないの。
 ありがとう。
 放送が入り、動き始めた飛行機の外の景色を眺めながら。
 思う。
 私は彼と別れようとしてたけど、彼は……。
 「浮気するなよ」は、こっちの台詞だよね。
 待ってるって言ったんだから、責任取ってもらうよ。
 私は後から後から溢れ出す涙を拭いながら、ロスへと飛び立った。

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